第1号

都市グッド・ガバナンス指標の作成

   2016年3月6日掲載

都市工会・都市ガバナンス部会
澤井 安勇


1. 都市ガバナンス指標の意義および概況

 市民にもっとも身近な生活・社会空間であり、行政体でもある都市の状況を的確に把握し、その適正なガバナンスを担保するための目安となる指標を作成する試みはかなり以前から行われてきた。近年の例では、都市行政体のパフォーマンス評価に主眼を置いたNPM(New Public Management)関連の指標(NIRAベンチマーキング指標など)が作成され、それらを活用した国・自治体の政策評価が話題を集めたことは記憶に新しい。また、グローバル・レベルの都市ガバナンス指標では、UN‐HABITAT(国連人間居住計画)の「都市ガバナンス指標」(Urban Governance Index, UGI)が有名で、これは、政策決定プロセスと基本的な都市生活需要へのアクセスにおける公正性(Equity)、公共サービスの提供と地域経済の発展促進における効率性(Efficiency)、政策意思決定者とあらゆるステーホルダーの透明性・説明責任(Transparency and Accountability)、市民の積極参加・市民性(Civic engagement and Citizenship)という民主主義社会の4つの基本条件に、都市開発における持続可能性(Sustainability)、権限と資源を市民の身近なレベルに確保する補完性(Subsidiarity)、市民個人及びその生活環境の安全性(Security)の3つの要件を加え、市民社会としての都市、多様なステークホルダーから成る複合的経営体としての都市さらには市民の生活環境、経済的活動の場としての都市の経営管理的要素にも言及しており、“良好な都市社会の実現”という視点が強いものとなっている。さらに、最近における都市に関する総合的指標としては、世銀・国連人間居住計画などの支援によりトロント大学に設置された都市指標機関が、都市サービスと生活の質に焦点を当てた指標として現在作成中の「グローバル都市指標」(Global City Indicators、GCI)が注目されている。都市サービス関係では、教育、エネルギー、金融、消防・緊急時対応、統治、健康、レクリエーション、安全、固形廃棄物、輸送、都市計画、廃水、給水の13項目、生活の質では、市民参加、文化、経済、環境、住まい、社会的公正、主観的幸福、技術・革新の9項目の部門設定がなされ、まだ開発中のものもあるが、各部門毎に1または2のコア指標と若干の補助指標が考えられている。GCIの資料作成には、日本など北東アジア地域を除く世界中の多くの都市の参加が予定されており、その指標体系の完成と各都市の計測結果が待たれるところである。なお、このGCIの生活の質の部分をさらに普遍した形の指標としてOECDの「より良い生活指標」(Better Life Index)があり、住宅、収入、雇用、コミュニティ、教育、環境、市民参加、健康、生活満足度、安全、ワークライフバランスの11分野について24指標で計測するもので、毎年国別比較データが公表されている。

2. SUM-UGGI(Urban Good- Governance Index)の概要

 都市ガバナンス部会においては、都市のあるべき姿として、①市民の参加と合意に基づく透明性のある政治・行政運営がなされている、②公正で差別のない開かれたコミュニティ社会の構築がなされている、③自然環境や資源・エネルギーとの調和のとれた持続性のある経済活動が行われている、④市民ニーズを最大限反映し、かつ安定した行財政運営がなされている、⑤リスク対応力のある安全・安心な生活コミュニティの確保及び快適な都市空間が確保されている、の5つの要件を掲げ、これらを表現しうる項目カテゴリーとして、Ⅰ持続可能性、Ⅱ補完性、Ⅲ公正性、Ⅳ効率性、Ⅴ透明性、Ⅵ市民性、Ⅶ安全性、Ⅷデザイン性の8項目を都市グッド・ガバナンス指標として設定した。これらは、結果的に、都市社会のグッド・ガバナンス要件を良くカバーしているHABITATのインデックス項目に空間的要素としてのデザイン性を加えたものとなっているが、具体的な指標項目・データの選定にあたっては、HABITATの指標にとらわれずに、わが国の都市レベルでの統計データの整備状況、都市間の比較可能性等も考慮して進めることとした結果、現時点で次のような指標項目・データ等を選定し、それらの評価基準等を設定した。なお、指標群は、計数データと事象データが混在する形になっている。

[SUM-UGGI指標群]
Ⅰ.持続可能性指標

・市民参加型長期ビジョン等の状況
(都市長期構想・総合計画、エネルギー・環境計画、文化振興ビジョンの策定、環境
保全条例の制定)
・期間経済成長率(3年平均)
・労働力率
・財政運営指標(財政力指数、経常収支比率、経常一般財源比率) 

Ⅱ.補完性指標

・自治基本条例・議会基本条例の制定状況
・権限委譲等の状況
・広域連合等の参加状況
・出先機関への権限・事務委任状況


Ⅲ.公正性指標

・多文化共生方針の策定
・福祉のまちづくり条例等の制定
・女性の社会参加率
・ジニ係数
・有業率・障碍者雇用率

Ⅳ. 効率性指標

・行政評価システムの導入
・民間委託・PFI/PPPの実施状況
・公民協働の実施状況
・行政改革方針の策定

Ⅴ.透明性指標

・情報公開制度の実施状況
・行財政情報の市民への広報状況
・ISOの導入状況
・市民監視組織の有無
・外部監査制度の導入状況

Ⅵ.市民性指標

・人口当たりNPO数・ボランティア数
・市民活動支援条例の制定
・請願・ 陳情・住民訴訟の状況
・住民投票制度の実施

Ⅶ.安全性指標

・地区防災計画の策定
・自主防災組織参加率
・犯罪発生率
・被害者 支援窓 口の設置
・標準化死亡率・健康寿命

Ⅷ.デザイン性指標

・市民参加型都市整備の実施状況(都市マスタープラン・景観計画の策定、地区計画
の実施)
・公園・広場整備率
・空間デザインの管理状況(都市景観等デザイン・コードの策定、デザイン性シビッ
ク・プライドの実施等)

3. 今後の展開方向等

 このSUM-UGGI指標群の相当部分については、公表されている統計、行政情報などにより測定可能であるが、都市規模等によりデータ整備状況が異なり、また、事象データなどの具体的な実態は、対象都市に直接ヒアリングする必要があるものも含まれており、本格的な計測・都市間比較等のフィールド・テストは、来年度以降の工程となる見込みである。これらの作業を通じて、各都市における各セクター間の協力によるソーシャル・ガバナンス状況又は民主的成熟度と都市の社会的・経済的・空間的環境との相互関係などの総合的チェックがある程度可能になるのではないかと考えている。(了)

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